タイピング練習

タイピングの練習のために始めました。嘘ではないです。

【読書感想文】「星の子」今村 夏子

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願い届かず 

 

学生生活を終え、社会に出てから一年が経とうとしている。この一年間で更新が一回しかなかったことからも私が社会の荒波に揉まれまくっていたことがうかがえる。そんなこんなで閑古鳥さえ寄り付かなくなったはずの当ブログに、今日30件以上のアクセスがあっている。30件!?

恐ろしく時間を持て余した狂人がひとり(もしくは2,3人)鬼のように過去記事から読み漁って下さったのだろうか。なんにせよ本当にありがとうございます。このアクセスに何かしらのアクションを返さずにはおれまいとの使命感にかられたものの、特に書きたいこともなかったので読書感想文を書いてお礼とかえさせていただく。それマジ?

 

今回感想を書くのは「星の子」著者:今村夏子 である。本屋の商売っ気があるコーナーに置いてあったのでジャケ買いした。中学3年生の少女視点から描かれる、超能力や密室殺人などは出てこない日常系(?)の物語である。少女の家庭は俗にいう「怪しい宗教」を信仰しており、学校の教員や保護者の間ではブラックリスト入り。一方で少女自身は、宗教にのめり込むでもなく、かといって拒絶をするでもなくの絶妙な距離感で「怪しい宗教」と関わっていく。元来内向的な少女の性格は、休み時間に一人で図書館にこもることを苦痛に感じさせず、周囲から宗教の事であれこれ言われる機会から彼女を守っている。また、宗教の集会に顔を出せば同じような境遇の子供たちが何人もいるため、孤独で押しつぶされることもない。そうやって現状に対して抵抗感を感じぬまま少女は育っていき...

 

そのまま幕が下りる。少女は最後まで中学校三年生のままなのだ。その後は描かれておらず、読者一人一人が少女の人生を完結させなければならない。そんな物語になっている。

個人的にはこの終わり方と、少女が「怪しい宗教」を考えることなく受け入れていることの2つが大きなポイントになっていると思う。先に後者から話をすると、少女にとって宗教は当たり前の文化・慣習であり、もとより歪んだ世界の内側で生きているため、周囲が感じる歪みに気づくことができない。しかしこれは多かれ少なかれ誰にでも当てはまることではないだろうか。誰しも自身の経験からつくられた「歪んだ世界」に住んでいて、その歪みは個性と読み替えられているのだと私は思う。その歪みが周囲に認められれば個性的で素敵な人になれるし、本書の少女のように認められなければ変な子として扱われるだけのこと。歪みそのものが問題ではないのだ。この物語は、そんな負のイメージを持った歪みを先天的に獲得してしまった少女の報われなさを通して、世界に蔓延している(普通とか常識とか呼ばれている)大きな流れの力強さ、恐ろしさを感じさせてくる。

二つ目の物語の終わり方については、個人的にはとても好みだった。もっと言えば「え、終わり?」という驚きの後に「いやでも、そうだよなぁ」という納得感が来て好きだった。この作品を通して描かれているのは、上に書いたとおり社会という大きな流れの強さと、そこからうっかり外れてしまったときのどうしようもなさだと思っている。そのため、少女がどんなエンディングに行き着いたところで、根本的なところには影響がないというか、それは少女自身が変わっただけで結局社会は何も変わっておらず後味の悪さが残る。むしろ、社会は恐ろしいけど、自分の生き方次第でどうにでもなるんだよ☆みたいなしゃらくさい感じになってしまいかねないと思うので、やっぱりあの終わり方なんだよなぁ。と納得している。

以上つらつらと予想以上に長く書きましたが、結論いい本でした。本屋のおすすめコーナーに置かれているだけのことはある。よかったら読んでみてください。ネタバレされてんじゃんと思うかもですが、私のチンケな感想文を読んだところでこの話の良さは1ミリも損なわれません。断言します。作家をなめんな。

これからも気まぐれに更新するかもなので、暇が極まったときはこのブログを除いてがっかりしていってください。是非に。

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