タイピング練習

タイピングの練習のために始めました。嘘ではないです。

相浦くんが負けた日

小学生時代の友人に、相浦(あいうら)君という人がいた。
4月上旬、学年が上がったばかりの彼はいつも教室の左前の席に座っていた。
7月下旬、1学期を終えた彼はいつもクラスの誰よりも早く通知表を受け取った。

そう、彼はその苗字から、50音順で名前を並べる出席番号制度において、常に先頭に位置していたのだ。

「あ」「い」「う」の三文字が美しく並んだ彼の苗字は、他の追随を決して許さなかった。
足立さんや明石くんなどの、一般的には「出席番号エリート」呼ばれる人々も、彼にとっては渡辺くんと大差ない存在だった。
美容室で「あ」から始まる苗字を持つ担当の方が「私、出席番号ずっと一番だったんですよ~」という話をしている時も、私の心は完全に凪であった。
適当な相槌を打ちながら、私は内心薄ら笑いすら浮かべていたように思う。「お前それ、相浦くんの前でも同じこと言えんの?ww」

そんな相浦くんを、私にとって心の拠り所であり、畏怖の念をもって崇めていた彼を上回る存在が、本日私の前に現れた。

彼の名は、愛内(あいうち)くん。

軽々しく名前を口にすることすら憚られるその御方は、相浦くんをいとも容易く玉座から蹴落とした。
30年弱破られることのなかった難攻不落の城、幾重もの防衛を成功させた最強のチャンピオンが、初めて破られた瞬間だった。

私は小市民の一人として、このことを後世へ残さねばならないと強烈に感じた。
それが私のような、出席番号7~15番程度の凡夫に与えられた唯一の仕事であり、また為すべきことなのだ。

これから私は、愛内くんを信仰して生きていくことになるだろう。
薄情だと思われるかもしれないが、私のような弱きものはそうやっておめおめと生涯を全うするほかないのだ。